

私は、貧困家庭は「性格」や「根性」の問題というより、生活の構造が崩れた結果として起こることが多いと感じています。
そして、その崩れ方には「よくある型」があります。ここでは実務の視点から、10のパターンに整理して説明します。
離婚後に起こりやすいのは、仕事・育児・家事が一人に集中する「ワンオペ化」です。
この状態になると、働きたい気持ちがあっても、働ける時間が物理的に足りないことが出てきます。結果として就労が削られ、収入が落ちやすくなります。
養育費が止まると、家計に「毎月の穴」が固定されます。
ここで大切なのは、責めることよりも、回収できる形(法律上の器)になっているかを確認することです。
特に次の2点が分かるだけで、取れる手段がかなり明確になります。
公正証書・調停調書などの債務名義があるか
差押え先(給与・口座など)の見当がつくか
子どもの通院や付き添いが継続すると、就労に制限が出ます。
加えて、医療費・交通費・生活の調整コストが増えやすく、家計は「収入が減って支出が増える」方向に傾きます。
家庭内の長期ストレスや睡眠不足が続くと、心身が持たなくなることがあります。
実際には、休職→退職→無収入→滞納という形で早く進むことがあるので、「がんばる」だけで抱え込まず、早めに支援につなぐことが重要です。
生活費の穴埋めで借入れが始まると、利息の分だけ家計が回復しにくくなります。
特にリボや後払いのように「毎月の支払額が小さく見える」タイプは、長期で負担が膨らみやすいです。
滞納は生活の自由度を一気に狭めます。
延滞金が増えたり、差押えのリスクが出たり、住まい自体が危うくなることもあります。
ここは「何を優先して止血するか」を整理するだけでも、状況が変わることがあります。
DVは身体的暴力だけではありません。
働くことを妨げられたり、通帳・身分証・スマホを握られたりして、逃げるための手段が奪われるケースがあります。
このパターンは「お金の問題」であり同時に「安全の問題」でもあるため、順番を間違えない対応が必要です。
離婚が長期化すると、別居費用、二重生活、弁護士費用などで家計が先に破裂します。
ここは勝ち負けの前に、生活を守るために「どう終わらせるか(着地点の設計)」を先に持つことが大切です。
親族が強く介入すると、話し合いが感情戦になり、本人が疲弊します。
疲弊すると仕事に影響が出て、収入が落ち、家計が崩れます。
そのため、誰が意思決定をしているかを一度整理するだけで、現実が動くことがあります。
支援制度はありますが、忙しさ・怖さ・恥ずかしさなどで届かないことがあります。
私はここを「遅れたからダメ」とは見ません。
ただ、早いほど選択肢が増えるのも事実なので、まずは状況整理と手続の段取りから整えます。
養育費は「元配偶者に払ってもらうお金」というより、子どもが親と同程度の生活を維持できるようにする扶養(生活保持義務)の具体化です。
令和8年施行の見直しでは、父母の責務(子の人格尊重・扶養・協力)がより明確になり、養育費・親子交流などのルールが整理されました。
不払いの相談では、感情を切り離して、まず次の2点を確認します。ここが入口になります。
① 強制執行に進める債務名義があるか
② 差押え先(給与・口座等)を特定できるか
この2つが揃えば回収は現実になります。揃っていなければ、先に「債務名義を作る」「情報を取る」ところから逆算します。
養育費の取り決めは、必ず次のどれかに分類できます。
協議離婚:協議書なし(口約束・LINEのみ 等)
協議離婚:公正証書あり
調停:調停調書あり
審判:確定審判あり
裁判:確定判決あり
※ 一般に「強制執行に直行しやすい代表例(債務名義)」は次のとおりです。
強制執行認諾文言付きの公正証書(条件あり)
調停調書/確定審判/確定判決
口約束やメッセージだけだと、法律上「差押え」に進むための土台(債務名義)がありません。
その場合は、次の順で“決め直す”ところから入ります。
養育費請求調停(家庭裁判所)
不成立なら審判(裁判官が決める)
決まったのに払わないなら強制執行(差押え)
公正証書がある場合、最初に確認するのは一点です。
強制執行認諾文言が入っているか
これが入っていれば、差押えに進める可能性が高まります。
入っていない場合は回収力が落ちるため、調停で調停調書を取り直す方針に切り替えることがあります。
誤解が多いので、丁寧に整理します。
公正証書を作っただけで、すべての準備が完了しているとは限りません。
実務では、差押えに進むために必要な正本や手続(送達等)を整える段階が出ます。
作成時に送達していない場合、後から執行に向けた準備を整えるのが基本です。
進め方は次のとおりです。
未払いを確定(未払い月・合計・根拠条項)
催告(書面):支払期限を切って明示
反応がない/再発するなら差押え(給与・預金等)
情報が薄い場合は財産開示/第三者からの情報取得を検討
この形は、回収を早める意味で実務上の強みがあります。
「届いていない」「知らない」と言い逃れしにくい
到達の立証がしやすく、無用な争点が減る
結果として差押えまでの時間が短くなりやすい
手順そのものは概ね同じですが、催告から差押えまでがスムーズになりやすい印象です。
※「受領書がある=差押え要件が満たされる」という意味ではなく、争点を潰す効果が大きい、という位置づけです。
この場合、公正証書は重要な証拠になりますが、強制執行に直行できないことがあります。
そのため、次のいずれかに切り替えます。
調停で調停調書を取る(強い債務名義にする)
必要に応じて訴訟で判決を取る
調停調書がある場合は、回収の本道に入っています。
まず「履行を促す」手続を使い、それでもダメなら差押えへ進みます。
履行勧告(家庭裁判所):裁判所から支払いを促してもらう
払わないなら強制執行(差押え)
差押え先が不明なら情報取得・開示手続へ
この3つは似て見えますが、役割が違います。
私は次のように説明しています。
履行勧告:裁判所から「払いましょう」と促す(任意支払いに戻す狙い)
履行命令:期限を切って「支払うよう命じる」(従わないと過料の可能性)
強制執行(差押え):給与・預金などから実際に回収する(回収そのもの)
大切な点はここです。
履行勧告や履行命令だけでは、給与や預金を直接“取る”ことはできません。
回収そのものは、最後の強制執行が担います。
だからこそ、差押えに進める状態(債務名義+差押え先の見当)を作ることが重要になります。
###(1)履行勧告で何が起きるか
調停・審判などで決まった養育費等が払われないとき、家庭裁判所に申出をすると、裁判所が調査のうえ、義務者に「決まったとおり払うように」と勧告します。
申出は、書面・口頭などで行います(運用は裁判所により異なります)
ただし、無視されても裁判所が財産を取ってくれるわけではありません
(2)履行勧告が使える前提(ここで止まりやすい)
調停・審判・人事訴訟など、裁判所の手続で決まった義務であること
公正証書など当事者の合意だけのものは、基本的に履行勧告の枠に乗らない整理になることが多い(この場合は執行=差押えの線で考えることが多いです)
(3)効きやすい人/効きにくい人
効きやすい
ルーズで放置している
体面を気にする
会社員で、差押え(勤務先)を避けたい
効きにくい
最初から踏み倒すつもり
住所や職を転々とする
自営・現金商売で差押え回避に慣れている
(4)履行勧告の位置づけ
履行勧告は「最終兵器」ではなく、私は **“地ならし”**として使います。
まず裁判所名義で促し、動かなければ次の段階へ進みます。
(1)履行命令とは
履行命令は、裁判所が義務者に対して「期限までに履行しなさい」と命じる制度です。
正当な理由なく従わない場合、過料(制裁金)の可能性があります。
(2)履行命令の狙い(実務)
履行勧告を無視されたので、関与を「促し」から「命令」に上げる
過料の可能性を示して、任意支払いに戻す
まだ差押え先が固まっていない段階で、相手の反応を引き出し状況を動かす
###(3)履行命令の限界(ここは誤解が多い)
履行命令は強い言葉に見えますが、
それ自体で給与や預金を直接差し押さえる力はありません。
無視される相手には、最後は強制執行に移ります。
(1)強制執行でできること
裁判所に申し立てて、義務者の財産(給与・預金・家賃収入など)から法的に回収します。
ここで必要になるのが、一般にいう 債務名義(執行できる根拠書類) です。
調停調書
確定審判
確定判決
-(条件を満たす)強制執行認諾文言付き公正証書
(3)養育費の差押えが強い理由(将来分)
普通の貸金などは「未払い分」中心になりがちですが、養育費のような定期金は、条件が合えば 将来分を含めた形で回収の仕組み化を狙える場面があります。
私は、回収を継続させたいときに、ここを特に重視します。
(4)差押えの優先順位(実務の目安)
給与差押え:回収が継続しやすい(仕組み化に向く)
預金差押え:即効性がある(ただし空振りリスクあり)
売掛金・報酬差押え:自営業・フリーランスは取引先を押さえる発想へ
不払いの確定(何月から何月、合計、支払日、根拠書類)
履行勧告(まずは任意回復を狙う)
履行命令(無視されたら一段階上げる)
強制執行(差押え)(回収の本丸)
情報が薄い場合は、財産開示や第三者からの情報取得などを併用して精度を上げる
公正証書があるのに履行勧告で進めようとして止まる
履行勧告や履行命令だけで「取れる」と誤解してしまう
給与差押えの強さ(継続回収・将来分の設計)を知らずに単発で終わる
確定していれば、調停と同様に 履行確保 → 差押え の流れで整理します。
確定判決があれば、差押えを軸に回収設計を組みます。
給与差押えは特に有効です。
差押えは、相手の生活を壊すためではなく、子どもの生活を守るための回収手段です。
実務では次の順で考えることが多いです。
給与差押え:回収が継続しやすい(回収の自動化)
預金差押え:一撃性がある(ただし空振りリスクもある)
売掛金・報酬差押え:自営業・フリーランスなら取引先を押さえる発想へ
履行勧告・履行命令は住所が薄いと詰まりやすいので、
住所探索と並行して、差押えに必要な情報(勤務先・口座)を固める設計にします。
差押えでも送達が絡むため、情報が薄い案件ほど「先に情報取得」の比重を上げます。
給与差押えが強力でも、勤務先が不明なら当たりません。
その場合は、財産開示や第三者からの情報取得手続などを使って「差押えできる情報」を作り、給与差押えにつなげます。
公示送達は、相手の住所・居所が分からず通常の送達ができないときに、裁判所の掲示等により「届いたもの」と扱って手続を前に進める制度です。
ここで大切なのは次の整理です。
公示送達は「回収する制度」ではありません。
公示送達は、届かない問題を突破して “決める/命じる/執行に乗せる”ための制度です。
回収そのものは、その先の **強制執行(差押え)**で行います。
(A)まだ債務名義がない(口約束・LINE・私文書だけ)
この場合は、まず「養育費を法的に決める」必要があります。
ところが相手が住所不定だと、調停が進みにくいことがあり、そこで 審判 → 公示送達 の発想が出てきます。
実務感覚としては次の流れです。
調停で呼べない・届かない
→ 審判で決める
→ 公示送達で手続を進める
→ 養育費の支払義務を確定させる(債務名義化)
→ 強制執行(差押え)へ
(B)すでに債務名義がある(調停調書・確定審判・確定判決など)
この場合、履行勧告・履行命令も選択肢に入りますが、住所不定だと「届かない問題」が再燃します。
また、差押え手続でも送達が関係するため、住所が薄い案件では詰まりが起こり得ます。
つまり、住所不定は 履行確保にも執行にも影響します。
住民票が動いていないと、形式上は「住所がある」ように見えます。
しかし実際は、そこに住んでいない。裁判所は概ね次のように見ます。
住民票上の住所に送達しても届かない(不在/転居先不明/あて所なし等)
他に送達できる場所(居所・就業場所等)も分からない
それでも手続を進める必要がある
この「送達不能」を積み上げて、最後に公示送達へ進みます。
公示送達は最終手段なので、裁判所は「本当に分からないのか」を見ます。
そのため実務では 所在調査(どんな手を尽くしたか)が重要になります。
所在調査で求められやすい要素(イメージ)
住民票上の住所宛に送ったが届かない(郵便の戻り等)
現地で居住実態が確認できない(可能な範囲)
連絡可能性のある経路を当たったが不明(親族・勤務先心当たり等があれば)
就業場所も不明、他に送達先がない
公示送達が認められると、相手が受け取っていなくても一定期間経過後に「送達された」扱いになり、審判などの手続が進みます。
住所不定で呼び出せない
→ 公示送達で審判手続を進める
→ 支払義務を法的に確定させる(債務名義化)
→ 強制執行(差押え)へ
公示送達の最大の価値は、「決める工程(債務名義化)」を止めないことにあります。
ここが現場の壁です。
公示送達で「決める」ことはできても
相手の勤務先や口座が分からなければ
差押え(回収)が空回りしやすい
だから私は、住所不定案件ではこの2本線を同時に走らせます。
公示送達=手続きを止めないため
回収=差押え先(勤務先・口座等)を当てるため
履行勧告・履行命令は「届かせて心理圧をかける」性質が強いので、住所不定だと効き目が落ちます。
ただし、住民票上の住所への形式送達ができる、勤務先が分かる等、送達ルートが確保できるなら意味はあります。
送達が不安定なら、最終的には 差押え中心の設計に寄っていきます。
差押え命令は、第三債務者(銀行・勤務先)に送達されて効力が生じるという基本構造があります。
そのため住所不定案件では、
まず第三債務者(勤務先・銀行)に届く形で差押えを当てる
相手本人への送達詰まりで遅れないよう、先に情報を固める
という設計が現実的になります。
住所不定(住民票未移動)で養育費不払いのとき、まず確認すること
債務名義があるか(調停調書・審判・判決・認諾文言付き公正証書)
住民票住所へ送達したが届かない等、送達不能の証拠があるか
勤務先・銀行口座など差押え先の手がかりがあるか
手がかりが薄い場合、情報取得(制度利用)を検討する段階か
「決めるための公示送達」と「回収の差押え先特定」を同時並行できているか

